はじめに
地球環境問題は、今や一国のみの問題ではなく世界的規模で取り組むべき課題です。とくに、商社など海外との商取引が欠かせない企業にとって、環境対応は必須条件であり、EMSの構築はビジネスにも直結する重要課題といえるでしょう。そんな中、国際規格であるISO14001以外のEMSを選択する企業も増えてきました。どのようにしてEMSの構築を図り、どのような効果があったのか、エコステージを導入した専門商社インタコンポ(株)の例をご紹介します。
担当評価員:木越 義廣
ISO14001に準じることがEMS導入の条件
インタコンポは、東京都渋谷に本社を構えるエレクトロニクスの専門商社です。1972年に創立し、従業員は57名。オランダ・フィリップス社の照明部門の代理店としてスタートし、日系メーカーの多様なニーズに応える電子部品を輸入販売するため、早くからアジアを中心に調達先を積極的に開拓してきました。現在、中国(香港、上海、深?)とシンガポール、タイに海外現地法人があります(右図:資料1-アジア各地に広がる海外拠点)。
当初、アジアの調達先においては、品質を安定させることが重要な課題となり、同社自ら工場監査や指導まで行い、品質管理や環境問題の改善まで取り組んできました。こうした経緯から、既に2000年9月には「環境理念」と「環境方針」が定められました。
その後、RoHS指令などの有害化学物質規制が高まるにつれ、専門商社でありながら中国に技術スタッフを常駐させるなど、さらに品質管理を徹底。同時に、ISO14001の導入が検討されました。それまでも取引先ごとの認定基準をクリアしていたものの、日系メーカーすべての要望に応えるため、第三者機関による客観的な認証が必要とされたためです。
しかし、ISO14001ではゼロからしくみづくりを行わなければなりません。文書作成ひとつにも従業員の作業負担が増え、コスト負担も大きいと危惧され、EMS構築は一時保留とされました。
そんな時にエコステージの存在を知り、比較検討が行われたようです。国内の認証制度の中ではISO14001との整合性が高い上に、初めてでも取り組みやすく、費用的にも負担が少ないことがわかりました。
ただし、配慮しなければいけないのはISO14001の取得を要望している取引先の意向です。EMSを構築したものの、市場から評価されないのでは意味がありません。そこで、同社は取引先の大手メーカー24社にアンケートを行いました。
その結果、ほとんどのメーカーから承諾を得ることができ、エコステージへの導入が進められたのです。
既存の体制や規定書を活かしながら、文書管理を推進
私が評価員として同社を訪れると、環境活動の管理体制はレベルが高く、エコステージ1の基本要求事項はほぼ満たしていることがわかりました。そのため、同社がもともとめざしていたISO14001に相当するレベル、エコステージ2への挑戦をアドバイスし、2006年2月にキックオフが行われました。
事務局については、既に化学物質含有調査のために設けられていた環境管理事務局を、そのままエコステージの事務局機能として活用。各部署から環境推進委員を7人選定し、運営がスタートしました。環境理念、環境方針ともすでにできあがっていたため(下図:資料2-2000年に策定された環境方針)、取引先企業の要望をクリアする具体的な目標を設定するとともに、社内での運用関係の規定を詰めていくことが主な作業となりました。
しかし、当初は戸惑いも大きかったようです。当時の状況について、同社の環境管理事務局代表である、取締役の松澤信行氏は、「文書・記録の管理を行う際、将来を見越し、できるだけISO14001に合わせる形で規定書づくりを行ったのですが、今までのやり方を極端に変えないといけない。みんな行き詰まりを感じていました。また、当社のような規模の会社では、メンバーもこの業務だけに専任させるわけにはいきません。忙しい日常仕事と兼任しつつ運営を進める方法にも悩んでいました」と、語っていました。
私は、松澤氏からこのような相談を何度も受け「必ずしもISO14001のルールに厳格に合わせなくてもいい。重要なポイントさえ押さえていれば問題はない」とアドバイスしました。同社では長年独自に作成してきた膨大な規定書があり、すべて作り直しになると、今までの苦労がムダになってしまいます。本質さえ合っていれば、書式など今までの形はそのまま踏襲し、そこに積み上げていけばいいと考えたのです。
また、環境管理事務局では、忙しい日常業務を縫って議事進行していくため、運営方法の効率化は常に課題です。同社では、たとえば規定書づくりに関して、あらかじめ松澤氏が基本ベースのたたき台を作成し、エコステージ推進会議ではそれに修正を加える方法で、時間の短縮を図りました。その分、松澤氏の負担は増え、ご苦労されたかと思います。こうしたリーダーの率先した取組みはどの企業でも重要であり、同社でもEMSの構築を支えることになりました。
1.地球環境問題は今や人類共通の重要課題であるとの認識の基に環境との調和を経営の最優先課題の一つとして、全社を挙げて取り組みます。
2.環境影響物質の含有管理を遵守すると共に市場ニーズを的確に把握し、これに対応する高度で信頼性のある技術及び製品を取り扱う事により社会に貢献するよう努め、更に必要に応じて見直しを行います。
3.法規制・顧客要求・その他の要求事項に対応する様、継続的な改善を図り環境保全に尽力します。
4.仕入先との協調を図り、より環境に適した製品を提供するように努めます。
5.製品の仕入・流通・廃棄の各段階における環境負荷を低減するよう配慮するとともに絶えず、省エネルギー・省資源化を心掛けます。
6.従業員の環境への意識向上を図ると共に広く社会に目を向け、幅広い視点からの環境保全活動により社会に貢献致します。
7.万一、事業活動によって環境問題が発生した場合は速やかに環境負荷を最小化するよう 適切な処置を講じます。
PDCAの徹底で営業活動も着実に向上
エコステージの最大の目的は、環境を切り口とした経営強化です。同社でも、誰もが見やすい受付ロビーに環境理念から目的・目標まで掲げ(写真右:資料3-受付ロビーに掲げられた環境方針や具体的な目的)、最初はごみの分別や省電力など、取り組みやすい環境活動からスタート。その後、徐々に作業効率の向上や社内環境の整備が図られるようになりました。
中でも、重要だったのがPDCAの徹底です。それまで同社では、業務計画を作成する=P(Plan)と、計画に沿って業務を行う=D(Do)は必ず行っていたものの、業務の実施が計画に沿っていたかを調べる=C(Check)と、その結果をもとに改善策を練る=A(Act)は曖昧な状態だったようです。それが、文書・記録の管理が徹底されたことによって、曖昧だった部分の「見える化」を実現。従業員の意識に刺激を与え(写真下:資料4-従業員自ら率先して行った勉強会)、日常業務に反映されていったのです。
商社の中心業務といえる、営業活動にも大きな影響がありました。
たとえば、一人の営業マンが新規のお客さま企業を1ヵ月に5件訪問するという計画を立てた場合、2件に留まったならば、「なぜできなかった?」とその原因を探ります。本人の行動力不足か、目標そのものに無理があったのか、一つひとつチェックし、改善すべきところを見つけ出し、対策を立てる。次の段階では、内容にまで踏み込み、「その会社で必要とされているコアな商品を売り込んだのか?」「そもそも相手に提案した商品を使うニーズがあるのか?」とチェックしていく。PDCAに基づいた見直しを繰り返し行うことによって、営業マンの意識も徐々に変わり、ノルマ達成率も向上していきました。
もうひとつ、全員参加の意識を促したのがマネジメント・レビューです。年に1回、社内の改善事項を従業員全員より提案していただき、それを環境管理事務局で評価した上で、マネジメント・レビューとして役員会に提出します。その場で各役員からも意見を出してもらい、改善策を具体化していきました。これによって、経営上必要なことが浮き彫りとなるとともに、全社員が共通の問題意識をもって取り組むようになったのです。
国際競争を勝ち抜き、経営体質改善の実現へ
2007年2月、同社は第三者機関の審査をクリアし、エコステージ2の認証を受けました。
これを契機に、取引先企業からはISO14001に相当するEMSを構築したと評価され、信頼性もより向上しました。ある日系メーカーでは、すべての工場監査を自社で行ってきましたが、インタコンポが工場監査している調達先については監査を免除するなど、技術商社としての評価がより高まりました。
現在、エコステージ2認証取得から3年経過し、PDCAに基づく活動はさらに浸透しています。営業活動でも、以前は月単位だったものが今では週単位でチェックを行い、早期の改善を実践中です。また、アジアの各拠点に水平展開をすることを目標に、環境関連文書の英字化も進んでいます(下図:資料5-環境関連文書の英字化が進行中)。今後の展開について、松澤氏は、「国際競争が激化している今、品質や価格だけでなく、環境対応まで目を配り、提案型の営業を進めることが商社の生き残る道だと考えています。そのためには、日本で立ち上げた環境経営をアジアの各拠点に根づかせ、国際競争力を向上させることが重要です。また、社内では『EMSは社内改善にもつながる』という意識が従業員の間に根づいてきました。環境経営を続けることで、お客さまの満足はもちろん、最終的には"社員が満足できる会社"を目指したいですね」と、語っています。
さらに、エコステージの導入は会社の経営者層の意識にも影響を与えました。環境責任者である、相談役の梶川博之氏は、「当社にとってEMSの構築は初めての試みでしたが、"環境は会社の経営そのもの"と環境経営の意義を実感したことで、経営者たちの意識も変わり、全社一丸となって取り組めたのだと思います。会社を長年経営していくと、既存のシステムで凝り固まり、硬直化した部分がでてくるものです。そんな古い体質を見直し、改善して行く際にも、エコステージは有効なツールだと考えています」と、当時を振り返っていました。
営業活動にまでPDCAを実践し、国際競争力を強化しつつあるインタコンポの取組み。そこには、業種や業態のワクを超え、さまざまな企業にとってのヒントがあるのではないでしょうか。エコステージは、このように広範囲な企業の課題解決に応え、EMSの構築を支援し、経営強化をサポートしていきます。
(日本語版)
インタコンポ株式会社
代表取締役社長 中原 紀男
2000年9月1日
(英語版)
Based on the corporate philosophy "A corporate who will contribute to the international community", "Intercompo" is aware deeply that the corporate is one of the community members, as well as implementing a thorough-going fair and clear business activity, throughout harmonizing with the environment & contributing to the corporate activity, we will strive to achieve a true wealthy community as a good international corporate citizen.
Yukio Nakahara / President
Intercompo Inc.
01, September 2000
※事例内容は2010年9月時点の情報です。