はじめに
グリーン調達や化学物質管理への早期の対応から、EMSは主に製造業を中心に導入されてきましたが、今では情報産業、金融業、商業施設など、さまざまな業種に広がりつつあります。中でも多くのテナントを持つ商業施設は、地域社会に対する影響力が大きく、CO2削減という観点からも注目を集めています。
その一方、商業施設の場合は、多種多様なテナントを束ねる必要があるなど特有の課題も抱えています。EMS導入を図るには、どのような点に注意し、どのようなプロセスを踏むべきか。私が評価員として担当した企業の中から、地域社会に貢献する環境活動を実現した(株)フォルマの例をご紹介します。
担当評価員:木越 義廣
他ショッピングセンターとの差別化がきっかけに
フォルマは、府中駅周辺の再開発事業を機に設立され、ショッピングセンター「フォーリス」の運営管理を行う商業デベロッパーです。1996年、フォーリスは府中市のシンボルといえる大国魂神社に隣接した美しいケヤキ並木沿いにオープンしました。テナントには有名なナショナルチェーン店のほか、古くからの地元の専門商店も多く、地域住民から親しまれています。
2006年にフォーリスがオープン10周年を迎えた際、フォルマは、競争が激化し、画一化しがちなショッピングセンター業界でより差別化を図るため、EMS導入を目標に掲げました。その背景として、府中市が環境活動に積極的な地域であることに加え、本業を通じて地元の人々や社会に貢献するという設立以来の企業方針があり、環境を重点テーマにすることは同社にとって自然の流れであったようです。
しかし、同社代表取締役社長の目黒万弘氏は、ISO14001取得を検討したものの、資金等の負担が大きいことに苦慮し、48ヵ店ものテナントを一つにまとめて環境活動を行う難しさにも直面していました。私が、エコステージの評価員としてご相談を受けたのは、そんな時でした。
当時、エコステージ協会は、複数の組織がグループ単位でまとめてEMSを導入できるグループエコステージを構想していた時期です。私は社長と何度も打ち合わせを重ね、この構想をもとに負担をかけずにEMSを実現する方法を熟考しました。そして、まずフォルマからエコステージ1に挑戦し、その後、グループエコステージによってテナント全店でEMSを導入する段階的な方法をアドバイスしました。多種多様な店舗をまとめるには、時間をかけて徐々に進める必要があると考えたからです。2007年、社長にこの案を受け入れていただき、エコステージ1への挑戦が始まりました。
全テナントを巻き込んだ初回研修で、従業員の意識が向上
エコステージでは、全員参加の意識を高めるため、初回研修(キックオフパーティ)を重要なポイントに置いています(資料1)。
フォルマの初回研修には全従業員13名に加え、フォーリス・テナント店の店長にもできるだけ参加していただき、さらに府中市市役所の環境関連部署の担当者や府中市商工会議所の方もお招きしました。これだけ多くの方々に参加いただいたのには理由があります。
一つは、将来のグループエコステージ導入を見据え、テナントの店長にも同じ意識を早い段階から共有していただくため。もう一つは、フォルマ従業員の方に自分たちの活動が地域社会から期待されていることを知っていただき、意識を高めたいと考えたためです。 (写真右:資料1-従業員だけでなくテナントの店長まで参加した初回研修<キックオフパーティー>)
その効果は絶大でした。エコステージ協会の吉澤正理事長が環境経営の意義について講演した際、参加者すべてが熱心に聞き入っていたのを覚えています。
次に、従業員の中からリーダーを決め、そのリーダーを軸にフォーリス環境対策推進委員会を組織しました。推進委員会では、トップダウン方式ではなくボトムアップ方式により、身近なところからできる環境対策について従業員それぞれの意見を募り、精査し、まとめていきました。その結果、活動内容は次の3つに集約されました。
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省エネ
- 事務所内電気使用量の削減
- 巡回時に売場温度の測定、休憩室内・空調の監視
- ESCO*を利用した省エネの推進
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省資源
- ゴミリサイクル率の向上
- ゴミ分別状況のチェックと改善
- コピー・印刷枚数の削減
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環境に配慮した施設の維持
- エコ関連イベントの実施
- 屋上緑化計画立案
- 従業員向けES活動(トイレ・ロッカールーム・休憩室改修、不要品処分等)
また、フォーリス全体で意識の共有を図るため、推進委員会には当初、テナントの店長にも参加いただきました。その中から、店長側の発案により、館内でテナント従業員が買い物する際はレジ袋を使わず、廃棄物削減を図る、いわゆるマイバッグ運動も行われるようになりました。
モデルケースを作ることで、意識の格差を解消
順調なスタートを切ったフォルマでしたが、しばらくすると一つの壁にあたりました。それは、テナント各店の意識の格差です。
省エネや省資源を行うといっても、フォーリス全館で行わなければ効果は上がりません。当然、テナント店の協力が必要となりますが、そこでは全国展開する大型店と家族経営的な商店など、規模の異なる店舗が混在し、環境への取組み意識にも差がありました。活動を続けるうちに、その差がますます開いていったのです。
私はその間、目黒社長から何度もご相談を受けました。ここが正念場と考えた私は、「フォルマの従業員自らが見本を見せて、引っ張ってみてはどうか」とアドバイスをしました。複数の組織がともに環境活動を行う際は、意識の格差が常に問題になります。これを解決する決め手の一つが、モデルケースです。私は長年の経験から、目標となり、手本となる例が身近にあることで、他社も刺激を受け、積極的に取り組み始める例をいくつも見てきました。そのため、フォルマ自らモデルケースになることをご提案したのです。
これをきっかけに、フォルマでは従業員自ら積極的に行動し、たとえば電源スイッチの近くに省エネの表示シールを必ず貼るようにしたり(写真右:資料2-スイッチ類にはシールを貼り、細かい設定温度まで表示)、廃棄物を細かく仕分けできるゴミ箱を設置(写真下:資料3-細かく分類できるゴミ箱を従業員の休憩室に設置)するなど、目に見える形で環境活動を徹底していきました。また、館内のバックヤードに放置された在庫品を整理する際は、各店舗にアンケートを行い、「○月○日までに必要な在庫かそうでないかチェックしてください。不要なものは、当社が責任をもって処分させていただきます」と事前に確認。処分代まで負担するフォルマの細やかな気遣いと根回しによって、各テナントの賛同を得、着実に整理されていきました。同時にこれは、各テナントに適正在庫を促すというプラス効果をもたらしています。このようにフォルマが率先して行った活動に刺激を受け、それまで消極的だったテナント店も徐々に意識が高まり、一つにまとまっていきました。環境活動は館内全体に行き渡り、温暖化防止プロジェクト「ふろしきで地球をつつもう」展など商業施設ならではのイベントも開催されるようになりました。そして、スタートから約1年後の2008年8月、その活動が評価され、エコステージ1の認証を受けることができました。
"環境"の共感の輪を広げ、ブランドの確立をめざす
同社にとって、エコステージ1は通過点に過ぎません。認証取得の際に構築したPDCAのしくみに基づき、省エネ、省資源の取組みはその後も続けられ、この3年間で冷暖房に使用されるガス消費量は11%、廃棄物処理量は16%、紙使用量は約半分に削減できました。さらに昨年、ごみの回収業者を見直すことによって、リサイクル率は100%を達成しました。
特筆すべきなのは、ショッピングセンターならではの多彩な活動です。「ふろしきで地球をつつもう」展に続き、2008年からは地下の食料品スーパーやNPO団体とタイアップし、北海道霧多布湿原の保全活動を紹介する物産展を開催(写真右:資料4-NPO団体と協力し、北海道霧多布湿原の保全活動を紹介する物産展)。今年からは「ハッピーグリーントークショー」と題し、自然保護活動に造詣の深い著名人を招いたトークショーを開催しています。どちらのイベントも多くの人々で賑わい、フォルマの環境活動を外部にPRするとともに、集客力アップにも確実につながっています。
また、府中市が月1回行う駅前周辺の清掃活動に、フォルマの従業員がボランティアとして参加。さらに、ケヤキ並木の美化運動の一環として府中市にプランターを寄贈し(写真左:資料5-ケヤキ並木美化運動の一環として、フォルマが寄贈したプランター)、地元の農業高校の協力を得て、美しい街並みの保護に貢献しています。今後は、家庭菜園として利用できる屋上緑化の計画も進められています。
目黒社長は、エコステージ導入の意義についてこう語ります。
「当初、EMS導入には、大がかりな設備投資が必要になると考えていましたが、エコステージでは、身の回りの目に見える問題から一つひとつクリアすることが重要だと気づき、負担を抑えて環境活動を図ることができました。また、要所要所で評価員の方に相談できたのも、初めてEMSを取り組む私たちにとっては大変心強いものでした。今後は、グループエコステージによってテナント全店でのEMS導入を計画しています。そして将来的には、当社自らがリーダーシップをとり、府中市や地元の市民の方々と連携し、緑豊かな町づくりに向けて"環境"という共感の輪を広げていきたい。それが、他社との差別化を図り、フォーリスブランドの確立にもつながるのだと確信しています」
地元に密着し、多くの人々を巻き込んで進められるフォルマの環境活動は、まさに商業施設ならではの取組み。EMS導入がもたらした新たな好事例といえるでしょう。エコステージは、こうした商業施設を含め、あらゆる業種、あらゆる規模の企業のニーズに応え、環境経営の実現をサポートしていきます。
※事例内容は2010年6月時点の情報です。