株式会社金子製作所の事例紹介

化学物質管理システムの柔軟な導入が、「ものづくり」企業の経営強化を果たす

所在地 埼玉県 さいたま市
認証レベル エコステージ1
担当評価機関 富士ゼロックス株式会社
株式会社金子製作所

はじめに

   製造業では、RoHS指令、REACH規則などに対応する化学物質管理は喫緊の課題となっている。こうした状況を見据え、エコステージでは、EMSに化学物質管理システムを組み込んだサービスをいち早く提供してきた。ただし、中小企業にとっては負担の大きい仕組みであるとの先入観から、本格的な導入に消極的な企業も多い。
 そんな中から、エコステージによって化学物質管理システムの構築をスムーズに果たし、自社の強みに変えた(株)金子製作所の事例をご紹介しよう。

エコステージ協会事務局

「ものづくり」企業の誇りから、化学物質管理システムを導入

08-02.jpg  金子製作所は、航空機エンジンや医療用内視鏡などの精密部品を手がける、きわめて技術力の高い部品メーカーである。
 本社工場は埼玉県さいたま市、社員80名。1956年設立以来、高度なプログラム設計を必要とする5軸精密加工など先進の技術を磨いてきた。特に品質管理に厳しい航空機の部品を扱うことから、2004年に航空宇宙の品質規格であるJIS Q 9100及びISO9001を同時に取得。2009年には、技術の独創性・革新性に優れた研究開発型企業として「さいたま市テクニカルブランド企業」に認証されるなど(写真右:資料1-「さいたま市テクニカルブランド企業」認証書)、業界内外からも高い評価を受けている。
 化学物質管理システム導入の直接的なきっかけは、RoHS指令だった。ただし、同社では「ものづくり」企業の誇りから、取引先企業に有害物質を含んだ製品を絶対に提供してはいけないという意識が高く、以前から化学物質管理の必要性を感じていた。また、当時は航空機や医療用製品はRoHS指令の対象外ではあり、将来を見据えた取組みでもあったといえる。
 その際、主要取引先の一社からエコステージによるEMSの構築も要請されたこともあり、EMSと化学物質管理システムを同時に構築することを決定。2006年8月、エコステージ1の挑戦のキックオフが行われた。ちなみにRoHS指令の施行は2006年7月。歩みを合わせるように、化学物質管理システムの導入が図られた。

航空機部品の管理方法を応用し、「入口」で有害物質を未然防止

 エコステージの運営組織としては、既にあった品質管理の運営組織を活用し、担当者もその両方を兼任。品質管理責任者でもある顧問の森靖夫氏をリーダーに、活動はスタートした。
 まず、化学物質管理システムで重要になるのが、情報の収集とデータベース化である。法律の順守が鉄則となるため、関連した法律や条例としてはどのようなものがあるかを一つずつ調べあげ、一覧表とした。
 次に、加工部品の材料にどのような物質が含まれているかを一点一点調査し、08-03.jpg法律や条例と照らし合わせながら有害物質の有無をきめ細かくチェックしていった。これは後に「グリーン調達ハンドブック」として文書化され(写真右:資料2-毎年更新される「グリーン調達ハンドブック」)、記載された材料の点数は1,000点近くになった。
 これらの作業は、労力と時間を伴うものであるが、化学物質管理を行う上で欠かせない第一歩といえる。同社では森氏を中心に少数精鋭のスタッフで集中して作業することで、半年ほどで漏れの無いデータベースを整理。その後すべての土台となった。
 化学物質管理では、こうした現状把握だけでなく、「今後、有害物質を含んだ材料を入れさせない」ことも重要になる。いわば"入口"でシャットアウトすることであるが、こうした仕組みを一から作り、従業員に徹底するには時間のかかる場合が多いものだ。
 08-04.jpgそこで、同社では航空部品の品質管理で行ってきた手法を応用した。たとえば「新規/変更部材使用申請」制度により、新規部材を使用する際は必ず「グリーン調達ハンドブック」と照合することを義務化し、工場に受け入れた後も、「材料証明データ」とひも付きの「材料一貫番号」のラベルを添付して識別(写真左:資料3-「材料一貫番号」が記入されたラベルで徹底管理)。有害物質の使用を未然防止するとともに、材料の混入ミスも防ぐようにした。従業員にとっては以前から馴れ親しんでいた管理方法であったので、スムーズな導入が可能となった。

産業医による講習を実施し、従業員の参加意識も大幅に向上

 同社がユニークだったのは、以前から活動していた安全衛生委員会の枠組みの中でも化学物質管理を捉え、健康管理の専門家である産業医による講習を全従業員に対して行ったことである。
 たとえば手袋で触らなければいけない有害物質を素手で触り続けるとどうなるのか、有害物質の粉塵を長年吸い続けていると肺にどのような影響がでるのか、産業医から直接説明を受けることで、化学物質の危険性が具体的にわかってくるようになる。この講習を繰り返すことで、従業員は化学物質管理が健康被害に結びつくきわめて身近な課題であることがわかり、なぜ自社にとって必要なのかも実感できるようになった。
 また、産業医という第三者の目で工場内の作業環境を厳しくチェックし、CO2や粉塵などの測定などを行うことで、安全面の強化に加え、環境面での改善にも着実に役立っていった。実際に、従来散発していた労働災害も、エコステージ推進過程で安全強化に取組んで以来抑えられ、労災ゼロを継続中である。
 安全衛生管理に化学物質管理を組み合わせることが、全員参加の意識を強めるきっかけになったといえる。従業員に化学物質管理システムの重要性を認識してもらうのに苦心する企業も多い中、一つのヒントとなるだろう。
 こうした化学物質管理の仕組みの構築、そして安全衛生管理と歩みを合わせた同社ならではの取組みが評価され、スタートから約半年後の2007年3月にエコステージ1を認証された。

切削廃材のリサイクルなど、5S活動による効果も着実に向上

 当初は化学物質管理の徹底が先行した同社であるが、エコステージ1取得後には従業員の環境意識が浸透し、着実な効果を上げている。
 一つの例をあげると、ブリケットマシンによる切削廃材の資源有効活用が行われた。
 航空機アルミの切削加工過程では、螺旋状の糸のような細かな切粉が廃材として大量に発生する。しかし、金属廃材といっても容積ばかり嵩み、実際は空気を運んでいるようなもので、運搬効率、保管庫容積、資源のリサイクル性の面からムダが多いことがわかってきた。そこで、切粉を圧縮できるブリケットマシンを導入(写真下:資料4-切粉廃材の資源有効活用)。 

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螺旋状の切粉を1/10程度の体積のブリケット(豆炭)状に圧縮することで、容積をとらず保管しやすくなり、それまで週1回の回収を月1回に低減。さらに、廃材を固形化することでリサイクル性が良くなり、切粉の買取価格も高くなった。その結果、09年には約100万円の年間効果額を生んでいる。
 このように、廃材、廃油、廃棄物は可能な限りリサイクル化し、ゴミの分別を徹底し、09年の産業廃棄物は07年に比べて約半分に削減することができた。
 また、省資源という観点からコピー用紙の削減も徹底。連絡事項・報告書を構内ネットワーク活用し、裏紙コピー・両面コピーの活用などにより、09年の用紙使用量は07年に比べ約20%削減することができた(下図:資料5-用紙および廃材の削減効果)

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「環境」「品質」「安全」の一体化により、経営強化を果たす

 同社では国内大手メーカーとの取引が中心だが、最近では海外メーカーとの取引も始まっている。安全衛生管理委員会の中心メンバーである秋山朋子総務部長は、新規取引を行う際に今までにない傾向が見られると指摘する。
「購買先審査を受けるとき、安全衛生管理やEMSに関わるチェックまで受けることが増えてきています。昔のように『良い製品を作って、お客さまに納めればいい』だけでなく、普段から『品質』はもちろん、『安全』や『環境』にまで真面目に取組んでいるかどうか、会社としての姿勢まで問われる時代になったのではないかと思います。海外に輸出する時は、特にその点が厳しくチェックされますね。エコステージは、ビジネスチャンスを広げる際にも役立つのではないかと期待しています」
 現在、「グリーン調達ハンドブック」は、少なくとも年に1回は更新、改版され、取引先の要求に明確に応えることで、信頼性をますます高めている。エコステージの管理責任者である森氏は、同社が化学物質管理システムをスムーズに構築し、徹底できた理由をこう語る。
「一からすべてを作るのではなく、エコステージ評価員の方のアドバイスを受けながら、既存の品質管理システムに組み込める柔軟な形を念頭に置き、化学物質管理システムを構築していきました。また、航空機部品の管理で培ってきたノウハウを応用し、安全管理と一体化しながら進めたことも重要でしたね。実際に品質向上を果たしながら環境対応を進めなければいけないし、安全性に配慮しつつ環境対応をすべきもの。それぞれが別個にあるのではなく、関連し合っていることもよくわかりました。今後は、REACH規則への対応が課題となりますが、エコステージで構築できた仕組みがすべての土台になると考えています」
 中小企業が化学物質管理システムを導入する際は、いかに省力化し、全員参加が図れるか、自社に最も当てはめやすいカタチで柔軟な導入を図ることが重要である。エコステージを通し、それまで培ってきたノウハウや管理体制を活用して導入した金子製作所は、重要な示唆を持つ好例といえる。今後もEMSの基盤を確実なものとし、更なる化学物質管理システムの構築に、エコステージがその一助になれば幸いである。

※事例内容は2010年12月時点の情報です。

「資源環境対策2011年1月号」雑誌記事ダウンロード