上野工業株式会社の事例紹介

日常業務に負担をかけずに環境経営を実現

所在地 栃木県 鹿沼市
認証レベル エコステージ2
担当評価機関 株式会社ゼットマネジメントプラス
上野工業株式会社

はじめに

 大手企業はもちろん、中小企業にも求められる環境対応の取組み。しかし、景気が低迷する中、「環境改善」や「EMS認証取得」と聞くだけで、多大なコスト負担や手間を強いられると危惧し、敬遠する企業は少なくありません。エコステージは、こうした中小企業でもなるべく負担を抑えながら環境改善活動が行え、環境経営の実現をサポートするEMS(環境マネジメントシステム)です。
 私が評価員として担当した上野工業(株)も、エコステージに取り組むまでEMS導入を重荷と感じていた企業の一つです。しかし、スタートから1年足らずで、ISO14001と同レベルの要求項目を備えたエコステージ2の認証を取得することができました。中小企業がその規模に応じた環境対応を図り、環境経営を実現しつつある典型的な導入例としてご紹介します。

担当評価員:石井 明

暗礁に乗り上げていたISO14001取得のチャレンジ

 01-02.jpg上野工業は、自動車のオイル・フュエル・エアーフィルターや空調フィルターなど工業用ろ過器の専門メーカーです。創立は1957年、東京本社のほか栃木県の鹿沼市と山梨県の甲府市に二つの工場を擁し、社員数は約150名(写真右:資料1-同社製品)。長年品質管理に積極的に取り組み、2004年には品質マネジメントシステムISO9001:2000[設計・開発]を取得しました。その後、取引先企業の要請に加え、社会的ニーズの高まり、さらに同社特有の廃棄物処理の問題等から環境対応が重要な経営課題となり、2006年よりEMS導入を果たすべくISO14001への挑戦をスタート。しかし、最初に「環境マニュアル」を作成したものの、実際にどのように取り組むべきか悩みや迷いが生まれ、その後の作業が滞りがちになったそうです。当時を振り返り、環境統括責任者の井上誠氏(品質管理部 取締役部長)はこう語ります。
「たとえば関連法令を調べるのにも範囲が広く、どのように調べれば効率的か、何を課題とすべきかわからない。私どものように初めてEMS導入に取り組む企業にとって、専門家への相談は不可欠なものだと痛感しました。しかし、ISOではコンサルティングは評価とは完全に分かれているため、その都度別会社にコンサルティングを依頼するほどの資金的な余裕はありません。足踏み状態のまま、どんどん活動が遅れていったのです」
 このような状況から部署ごとに取組み意識の格差も生まれ、とくに多くの機械設備を管理する生産部門では停滞していきました。取引業者の紹介により、私がエコステージの評価員として同社に伺ったのは、EMS導入が暗礁に乗り上げていたときでした。

エコステージに転換し、中小企業ならではの悩みを解消

 エコステージが他のEMSと違うのは、環境経営の実現に向けた支援をもっとも重視している点です。評価員は登録評価だけでなくコンサルティングやアドバイスも行い、環境改善活動の効果が上がるように徹底的に指導していきます。導入企業にとっては、わざわざコンサルティング会社に依頼する必要がなく、コストを抑えてスタートできるのが利点です。また、環境経営システム導入の「1」からCSR実現の「5」まで5段階のステージを備え、企業の規模等に応じて挑戦しやすいステージから始めることができます。
 メリットは、コスト面だけではありません。エコステージでは全員参加を軸にPDCAサイクルを回し、企業活動の本業の中で環境対策を徹底していくことを基本にしています。特に、大手企業のような環境管理の専任部署や専任スタッフを設けにくい中小企業にとっては、日常業務と並行しながら環境改善活動を行えることが重要です。01-03.jpg
 そのため、環境対応へのネガティブなイメージを払拭しようと、エコステージが中小規模の企業でも取り組みやすいEMSであることを粘り強く説明し、ご理解いただくようにしました(写真右:資料2-勉強会)
 2008年3月、本社、栃木工場においてエコステージ宣言を行い、環境経営目標が定められました。頓挫状態だったとはいえISO14001取得に向けてすでに活動を行い、基礎部分は整いつつあったため、ISO14001と同レベルの要求項目を備えたエコステージ2への挑戦を推奨しました。
 活動目標については、コンサルティングを通じて同社の課題を抽出し、特にフィルター製造の過程で生まれる端材や接着剤など廃棄物の処理に長年悩んでいたことから、社員全員が具体的かつ身近な問題として感じられるよう以下の4つに絞り込みました。

  1. 使用資源・エネルギーの削減
  2. ゴミの分別を進め、資源の有価物化(リサイクル等)に努め廃棄物を削減
  3. 有害化学物質の使用削減及び代替化の推進
  4. 排水等による土壌汚染の改善

 また、「個々の能力を培い、総力を結集し社会に信頼される会社にしよう」と同社独自のスローガンも定められ、環境改善活動が再び動き出しました。

工場を5つのエリアに分け、負担をかけずに環境改善活動を継続

 環境改善活動は、栃木工場を5つのエリアに分けて行っていきました。部署ごとに単純に縦割りにするのではなく、エリアで分けることで、普段自分たちが利用している身近な場所のエネルギー使用や廃棄物に対して責任をもたせることがねらいでした。
  また、5つのエリアそれぞれの管理責任者には、ISO14001の取組みの際に内部監査員の教育を受け、資格を得ていた者を任命しました。力量を備えた各管理責任者がリーダーシップを発揮することで、全体の意識レベルの底上げにつながりました。
 ISO14001挑戦時には部署ごとに進捗状況にバラつきが生まれましたが、綿密なコミュニケーションを図ることでこれを解決。月1回の推進会議だけでなく、エリアごとに会議を重ね、事務局が労を惜しまずネゴシエーションを重ねたことも、功を奏しました。
 一番の課題であった廃棄物処理については、接着剤カスや蛍光灯管など、工場内に長年放置され未処理のままだったゴミがきれいに分別され、産業廃棄物として適正に処理されるようになりました。また、屋根付きの回収場所を設置したことにより、見た目もきれいになるなど(写真下:資料3-改善前後の比較、評価員として同工場を訪れるたびに個々の活動が着実に根づきつつあることを実感しました。
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 事務局でエリア全体のまとめ役を担った鈴木伸一氏(総務部 主管)は、現場サイドから受けた手応えをこう語ります。
「エコステージの活動は、たとえばPDCAサイクルを回すというときも、今まで製造会社として行ってきた品質改善活動と近いものがあり、みな取り組みやすさを感じていたようです。ISO14001に取り組んだ時は、今まで各自が持っている仕事に大きな責務が加わり、精神的な負担も感じたのですが、エコステージの場合は、今までやってきたことの目先や方向性を変えることで対応できます。なにより各自の業務に大きな負担をかけなかったのが、活動を続けられた理由だと思います」
 2008年11月、EMSのしくみが構築できるとともに、それぞれの活動が評価され、第三者機関の審査をクリア。エコステージ2の認証を取得しました。

最終的な目標は「利益追求」、今後は環境管理と品質管理の統合化へ

 同社の環境改善活動は、認証を取得しただけでなく、実際に目に見える効果に結びついています。2009年度、電気消費量の削減、産業廃棄物の削減、工場の土壌汚染防止については、当初目標値を100%以上達成。その他の目標値も、80%以上達成し(下図:資料4-栃木工場・目標達成率レーダーチャート(2009年度)、コスト削減や利益向上に貢献しています。2009年度には甲府工場でもエコステージ2を取得し、すべての施設で環境対応を図ったことで、取引先企業からの信頼は揺るぎないものになっています。

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 活動中にアドバイスを求められた際、何度も繰り返したのは「利益につながる考え方をしたほうがいい。そうでなければ意味がない」ということでした。EMS導入は、決してムダなコストではありません。EMSの仕組みを構築し、環境改善活動を定着させていくことで、コスト削減、生産効率化、品質改善など、さまざまな企業活動に繋がり、将来の利益に結びつくことを強調したかったのです。今回の活動を通じて、エコステージ本来の目的に共感し、その効果を実感していただけたと考えています。
 現在、同社はさらなるステップアップを目指し、エコステージ2の定着化を進め、次のステージへの挑戦も準備しています。また、環境マネジメントシステムと品質マネジメントシステムの統合化にも着手しました。井上氏は今後の取り組みをこう展望しています。
「品質管理を行うときも環境対応を意識しなくてはならないし、環境管理を行うときでも品質向上は重要な課題。しかも、どちらも『利益追求』という最終目標は一緒です。そのため、より効率的な仕組みにするため、両者の統合化を進めています。私たち中小規模の企業がさらに飛躍するためには、50年間のフィルター生産で受け継がれたノウハウウを活かすとともに、従業員個々がレベルアップを果たし、総力を結集しなければいけない。これからは、品質管理でも、環境管理でも、新しいステージにチャレンジしていきたいと思っています」
 今回事例に取り上げた上野工業株式会社のように、中小企業だからといって環境対応を重荷に感じることも、EMS導入を諦める必要もありません。日常業務と並行して環境改善活動を図り、負担を抑えた環境経営の実現へ。エコステージが、あらゆる規模の企業のニーズに応え、EMS導入をサポートしていきます。

※事例内容は2010年4月時点の情報です。

「資源環境対策2010年5月号」雑誌記事ダウンロード